☆今回の小話は、広島大学病院 江草 玄太郎 医師からです☆
10月、いよいよ秋が深まってきました。色々と、食事が美味しい季節になってきましたね。食べ過ぎて体重が増えやすいこの時期、肥満と深い関わりのある脂肪について少しお話します。
脂肪は通常食事から取り込んだ栄養を蓄える働きや内臓を保護する役割がありますが、必要以上に脂肪が増えてしまいますと肥満とよばれる状態になります。肥満は血糖値や血圧、コレステロールなどに様々な影響を与えます。
しかし、脂肪の中でも抗肥満効果のある脂肪をご存知でしょうか?最近、熱を産生することでエネルギーを消費し代謝能を改善する褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞と呼ばれる、熱産生脂肪が注目されています。実はこれらの細胞は、ヒトでは新生児期に体温を維持する働きを持っていることがわかっており、成人になるとその活性が失われるとされていました。しかし最近では、様々な環境因子により活性化されヒト成人でもその能力が発揮されることが数々の研究でわかってきました(図1)。
例えば、15〜19℃くらいの肌寒い環境で数時間過ごすことや様々な食品成分-カプシエイト(;トウガラシの成分)、 パラドール(;ショウガの辛み)、カテキン類(;ポリフェノール)-などの身近なものがヒト褐色脂肪細胞の活性化に関連する可能性が知られています。褐色脂肪細胞が活性化することでカロリー消費量が増加し、抗肥満効果が得られる可能性が示されています(図2.「肥満症のメディカルサイエンス」(梶村真吾、箕越靖彦/編), pp33-38, 羊土社, 2016)。
私たちの研究グループでは、主に熱産生脂肪の成り立ちや、脂肪細胞の熱産生能を増強するために必要な因子を探索し、これらの細胞を実臨床へいかに応用するかについて研究を進めています。私自身の研究を紹介させていただきますと、高脂血症の治療薬として有名なフィブラート薬を含むPPARαアゴニストが、ヒトに眠っている熱産生脂肪の熱産生能を活性化に有用な刺激の一つである可能性を見出しております。
脂肪細胞は様々な刺激を受けて変化しその能力を変化させ最終的には全身の体質にまで影響するかもしれない、実は魅力的な細胞たちなのです。
近い将来、肥満症の治療で中心的な役割を担うのは、この脂肪細胞たちかもしれません。
広島大学病院 内分泌・糖尿病内科 江草玄太郎