あけましておめでとうございます。
広島大学病院 内分泌・糖尿病内科医師の小武家和博が、本年1回目の糖尿病小話を担当させていただきます。

折角なので、干支にちなんで糖尿病とウサギのおはなしをいたしましょう。
え、糖尿病がウサギと関係あるのかって? 
実はちょっとした関係があります。

とはいえ、ウサギが糖尿病になりやすい、とかそういうことではありません。
糖尿病の方とはちょっと縁のある、『インスリン』にウサギが関わっています。

「インスリン〇単位」
インスリン注射をされたことのある方なら、聞き覚えがあるかと思います。
この「単位」っていったい何だかご存じでしょうか?
お薬で使うような「mg」、あるいは液体の量「ml」とも違うこの「単位」という単位。
これは医薬品としてのインスリンの効果を表す量(生物学的活性の強さ=力価)です。

インスリンの発見はおよそ100年前の1921年です。このことについては以前の糖尿病小話でも、杉廣医師が書かれていました(『第2回 世界糖尿病デーとインスリン』https://hmadec.hiroshima-u.ac.jp/wp/2020/11/01/post-391/ 『第14回 百周年! インスリン治療の歴史』https://hmadec.hiroshima-u.ac.jp/wp/2021/11/08/post-721/)ので、是非ご覧になってみてください。
インスリンには血糖値を下げるはらたきがあることがわかりました。
しかしお薬として使うためには、「どれだけの」インスリンを使えば「どの程度の」効果が出るのかを、はっきりさせなくてはいけません。
使うたびにどれだけ血糖値が下がるかわからないのに、打つインスリンの量を決められませんからね。

当時のインスリンは動物から抽出して精製したものを使っており、まだ純度は低く、多くの不純物が混ざっていました。
そのためインスリンとして血糖値を下げるちからがどのくらいあるかは、集めたインスリンの重さを測るだけではわかりませんでした。
そこで、1923年当時の研究者たちはこう考えました。
「ウサギ1匹に低血糖によるけいれんを起こさせることのできるインスリンの量を1単位としよう」

はい、ここでウサギが出てきます。
真っ白モフモフなウサギさん可愛いよね、というお話でなくて大変申し訳ありません。今も昔も研究者にとってはウサギといえばネズミとならぶ実験動物の代表選手なのです。
筆者も大学生の頃、自分の実験用のウサギさんを一匹飼っていました。モフモフでした……。

話がそれました。
ウサギは、血糖値がおおよそ45 mg/dL以下に下がるとけいれんを起こす、ということがわかっていました。インスリンの強さが量では比べられないため、動物を用いた測定法で決めるしかなかったのです。
この定義、正確には以下のようになります。
『インスリン1単位とは、24時間絶食状態にした体重約2 kgの健康なウサギの血糖を3時間以内に痙攣を起こすレベルにまで下げ得る最小の量である』

1924年当時、標準インスリン乾燥粉末1mgは8.6単位だったそうです。
その後バイオテクノロジーなども使って純粋なインスリンを作製することが出来るようになり、現在決められている国際標準インスリン(1987年)は、1mgが26単位の力を持っています。
純度が高まることにより、実に3倍以上のパワーアップするとともに、薬としての副作用も大きく減らすことができました。
技術の進歩は偉大です。

現在インスリン注射をされている方が使っている様々なインスリン製剤も、種類は違っても1単位の強さはみんな同じ上述の定義を用いています。
現在では、個々のインスリンごとにウサギを使って測定しているわけではなく、国際標準インスリンと、製品のインスリンを化学的な定量法で比較して、単位を決めています。
よかった、もうつらい思いをするウサギさんはいなかったんですね。
これで毎日安心してインスリンを打ち続けられます。

以上が、糖尿病とウサギのちょっとしたお話でした。
ウサギが跳ねるように、今年が皆様にとって飛躍の年になるように祈っております。
糖尿病治療にも、大きな飛躍があるといいな、と願っています。
決して、HbA1cが大きく跳ね上がったりはしないように、気を付けたいですね!

参考文献

インシュリンの検定(pdf) | 糖尿病 第2巻 1959年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo1958/2/0/2_0_59/_pdf